当院の特色

たばこの害と禁煙外来


はじめに

 たばこはお酒、コーヒーと並ぶ嗜好品として古くから、人間の生活に浸透しています。しかし、その健康被害は三者の中で最も大きいことはご存じかと思います。「百害あって一利なし」この言葉はたばこのためにあるようなものです。啓発活動が全国的に進み、近年の喫煙率は徐々に減少傾向にあり、医療機関の禁煙外来を受診する患者数は増加傾向にあります。そこで今回は、たばこに関係する様々な話題を、最新の情報をもとにお送りします。


1.たばこの有害成分と健康被害

 たばこ草は学名をニコチアナ・タバカムと言いい、アメリカ大陸が原産です。我が国には1543年、鉄砲伝来と同時に持ち込まれたと言われています。1609年に「たばこ禁止令」なるものが出ましたが、これは健康被害減少目的ではなく、「米の生産を優先」させるためのものでした。
 たばこの煙には4,000種類以上の化学物質、約200種類の有害物質、約60種類の発がん物質が含まれます。多くの有害成分は比較的高温(最高約900℃)の吸煙時よりも比較的低温(最高約600℃)の自然燃焼時に発生しやすいのです。副流煙は主流煙よりも多量の有害物質を含むのはこのためです。
 有害物質は、たばこの煙の@粒子相とガス相の両方に含まれる成分、A主として粒子相に含まれる成分、B主としてガス相に含まれる成分、の3種類に大別されます。

@粒子相とガス相の両方に含まれる成分

A主として粒子相に含まれる成分

B主としてガス相に含まれる成分とに大別されます。

 ここまでお読みになって、たばこがどれ程健康に良くないかがおわかりなったことと思います。喫煙者の先生方は目と耳が痛いのではないでしょうか?

 

2.たばこ規制枠組み条約

 たばこは、喫煙者本人のみならず周辺の人にも健康被害を及ぼします(受動喫煙)。国際化が一層進む中、たばこによる健康被害を阻止するためには、国や民族の垣根を越えた対策が必要になります。2003年にWHOの総会で「たばこ枠組み条約」(Frame Convention for Tobacco Control:FCTC)が採択され、2005年2月27日に発効しました。
 このたばこ規制枠組み条約では、@たばこ価格・税の引き上げ、Aたばこ警告表示の強化、Bたばこ広告の包括的禁止、C禁煙治療の普及、Dたばこ自動販売機の制限などが含まれています。

@たばこ価格・税の引き上げ

 そもそもたばこ税は、1876年に施行された「煙草従価印紙税法」がはじまりであり、その後日清戦争後に、煙草税則が改められ、1898年に葉煙草専売法が施行されて葉たばこの専売制が開始されました。さらに日露戦争の戦費調達のために1904年に収納・製造販売・葉煙草ならびに製品の輸入移入に専売の範囲が拡がりました。たばこ専売の開始以来、大蔵省が運用していましたが1949年から「日本専売公社」が引き継ぎここで「たばこ消費税」が登場しました。1984年に「専売改革関連法」、「たばこ事業法」が制定され、一方、「たばこ専売法」および「製造たばこ定価法」が廃止となりました。1985年に日本専売公社が廃止され現在の「日本たばこ産業株式会社(JT)」が設立され、1989年に消費税法の施行により、「たばこ消費税」が廃止され「たばこ税」という現在の名称なりました。
 以上のように、たばこ税は健康被害を念頭に議論されたことはありませんでしたが、2010年ごろからたばこ税増税の目的を「健康目的の為に喫煙者を減らす」といった様相を呈してきました。そこで、税収を目的にたばこの値段を上げるのか、値段を引き上げて禁煙する人を増やし、中長期的にたばこ関連疾患により消費される医療費を減らすことを目的とするのか議論されました。京都大学経済学研究科の依田高典教授によると、もしたばこ1箱が500円になった場合に禁煙しようと思う人の割合は喫煙者全体の40%であり、もし1箱が1,000円になった場合に禁煙しよう思う人の割合は97%であるとシミュレーションしています。さらに、たばこが1箱500円で0.5兆円の税収増が見込まれる一方、1箱1000円では1.9兆円の税収減少が予想されるとしており、たばこ税による収入を見込んでいる政府からすれば1箱1000円にしたくないのは当然といえます。つまり、政府はたばこを未だに資金源と考えており、国民の健康のことは二の次なのであります。

Aたばこ警告表示の強化と、Bたばこ広告の包括的禁止、

 たばこのテレビCMが無くなってからだいぶ時間がたちました。とても良いことであります。しかし、たばこのパッケージ横に記載されている警告表示は、先進諸外国の表示に比べ、占有面積は最小であり、文言も非常に回りくどく、あの表示を見てたばこをやめようとする人はほとんどいないというアンケート結果もあります。諸外国は非常にショッキングな写真入りで警告表示がなされていますが、日本は写真も掲載されていないのが現状です。

C禁煙治療の普及

 施設基準を満たす施設で行う禁煙外来は、患者さんが条件を満たせば健康保険が適用されます。たばこによる健康被害の啓発活動が浸透したためか、禁煙外来を希望して来院する患者さんは後を絶ちません。チャンピックス錠(一般名:バレニクリン酒石酸塩)を使用することで、70〜80%(自験例)の禁煙成功率が見込まれます。

Dたばこ自動販売機の制限

諸外国に比べて、日本のたばこの自動販売機は圧倒的に多数です。2000年〜2005年は全国で約60万台設置されていましたが、2006年から減少し始め、2010年は36.7万台と約半数に減少しています。ちなみにアメリカ合衆国は2010年の国内のたばこ自動販売機普及台数は34,000台で日本の10分の1です。


3.禁煙外来

 いままで、たばこの健康被害についてお書きしましたが、「やめたい気持ちはあるけど、なかなか決心がつかない。」「自分一人でやめる自信がない。」など悩んでいる人に禁煙外来があります。
 たばこを吸う人は「ニコチン依存症」になっており、禁煙外来は貼付薬や内服薬を使って禁煙のお手伝いをします。敷地内禁煙が実行されているなどの施設基準を満たした医療機関で、患者基準を満たした方が禁煙外来を受ける場合、保険適応となります。患者さんの基準は図1に示すごとくです。またニコチンへの依存度を測る質問表は図2のようなものです。
 禁煙外来は、まず専従の看護師により問診、呼気中一酸化炭素濃度測定を行います。次に医師の診察を受け、最後に禁煙補助薬として貼付薬(図3)か内服薬のチャンピックス(図4)の処方を受けて1日の予定が終了します。原則として2週間毎に外来受診してもらい問診、診察、処方を繰り返します。期間は8〜12週間です(図5)。
 禁煙外来に必要な費用は2万円以下で、たばこを吸い続けた場合のたばこ代より少ない金額です(図6)。
 めでたく禁煙に成功した場合、修了証書(図7)を差し上げます。喫煙者の皆さん是非トライしてみてください。

禁煙外来を保険診療で受けることが出来る患者さんの条件 ニコチン依存度を測る質問票
禁煙外来 たばこ代と禁煙外来の自己負担額
修了証書
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