当院の特色

喘息(ぜんそく)


1.ぜんそく(喘息)とは

 ぜんそくは、子供からお年寄りまで幅広い年齢層でかかる可能性がある病気です。
 日本のぜんそくの患者さんの数は、およそ400万人とされています。
 ぜんそくで亡くなる人は年々減少しているものの、その数は未だ年間約2,500人にものぼり、他の先進国と比較して高い傾向にあるといわれています(図1)。また、当院が位置する福島県の死亡率は残念ながら全国平均より高い傾向にあります(図2)
 最近の調査では、治療薬や医師による適切な管理および指導にもかかわらず、重症患者さんの20%は症状のコントロールが不十分であると言われており、日常生活に支障をきたす重症のぜんそく患者さんが依然として多く存在することが、大きな問題となっています。この背景には、治療を受けている方の中には、もっと良くできるにもかかわらず自分では「こんなもんだろう。治療する前に比べたらずいぶんいいからこれで満足。」と妥協していることがあげられます。図3に示すようにコントロール不良と思われた場合は主治医に相談しましょう。
 ぜんそくのメカニズムは長い間、気管支が収縮して気道が狭くなる発作性の疾患と考えられていたのが、気道粘膜の慢性的な「アレルギー性炎症」であると、改めて定義されるようになりました。成人の気管支喘息の病態は、気管支を取り囲む筋肉がけいれんするように収縮し、気管支の内側の粘膜がアレルギー性炎症によりむくみ(気道がより狭くなり)、さらに痰(たん)などの分泌物が詰まることで呼吸困難を生じるものです(図4)。これらの変化が長く続くことで、喘息の患者さんの気道は次第にわずかな刺激にも激しく反応してしまいます。これを「気道の過敏性の亢進(こうしん)」といい、気管支喘息の大きな特徴です。また、症状は夜半より明け方にかけて出現し、昼間はほとんどないのも特徴の1つです。

喘息死速報 喘息死亡率(福島県)
コントロール状態の評価 喘息の病態は軌道の炎症と狭窄
※画像をクリックすると拡大画像が表示されます。

2.ぜんそくの症状

 発作時にはヒューヒュー、ゼーゼーという喘鳴(ぜんめい)を認め、ひどくなると呼吸が苦しくて横になっていられない状態になります。起坐(きざ)呼吸といって布団やベッドの上に座って前にあるテーブルなどにもたれてしまわないといられない状態になります。 喘息症状や喘息発作は様々な形で発症し、そのきっかけとしてはアレルギーの原因となっている抗原との接触、かぜ、過労、ストレス、ペット、天候、運動、タバコの煙、強い臭い、冷気、飲酒、月経など、実に様々な誘因があげられます(図5)。患者さんの重症度や治療の状態によって、症状の程度は様々に異なってきます。
 また、ごく一部の喘息の方で解熱鎮痛剤で発作が起きる方がいますので、注意が必要です。整形外科や歯医者さんで痛み止めをもらうときには「ぜんそくを持っています。」と必ず告げてください。
 症状は、一般に喘鳴を伴うことが多いのですが、喘鳴がない場合もあります。

など様々です。また重症で不安定であれば、チアノーゼや意識障害をきたし、喘息死(窒息死)に至る場合もあります。

喘息症状を起こす誘因

3.咳ぜんそく

 ぜんそくのなかでも、喘鳴を伴わない「咳ぜんそく」というタイプがあります。その特徴は


4.ぜんそくの診断

 ぜんそくの診断には医師との会話のやりとり「問診」がとても重要です。症状の程度や経過を把握するためです。喘鳴を伴う呼吸困難発作を繰り返す場合には診断は比較的容易です。しかし、症状によっては、喘息の診断に至ることが難しいことも多いのが現実です。
 喘息に特徴的な症状すなわち昼間より夜間や朝方に症状が強く出る。タバコの煙や匂いで咳き込んだりする。などが参考になります。
 また、呼吸機能検査で、1秒量が低下していたり、気道過敏症テストでより低濃度の刺激物質で1秒量が20%以上低下するようであれば、診断は確実です。
 他に血液検査、喀痰(かくたん)検査、胸部レントゲン、肺機能検査が大切です。また、喘息はアレルギー性疾患として分類されるので(原因となっている抗原の回避は治療の基本となる)、抗原を推定するための検査も行います(血液検査、皮膚反応、粘膜反応、抗原吸入誘発試験など)。
 最近、呼気中の一酸化窒素(NO)濃度を測定することで診断の助けになることがわかり、この検査は保険適用になりました。


5.ぜんそくの治療

 ぜんそくは、近年最も大きく治療方針が変わり、明らかな成果をあげている病気の1つです。喘息は発作の時にだけ気管支に変化が起きるのではなく、普段から炎症が存在している病態であるということで、その場しのぎの発作を止める治療から、むしろ慢性に存在する炎症を治療して、発作を起こさせなくする(予防に重点を置いた)治療へと変化したのです。
 気管支喘息は症状や呼吸機能などから重症度が分けられますが、軽症であっても不十分な治療のまま10〜30年の長きにわたって軽い症状を繰り返しているうちに、次第に元に戻りにくい病態(リモデリング)へと進行して重症化していくのが一般的です。それゆえ病初期より積極的に気道の炎症を抑える治療を行い、発作がなくなって無症状となっても、糖尿病や高血圧と同じく慢性疾患としてこの治療を継続させることが最も大切です。
標準治療 喘息の治療は、

 に大別されます(図6、7)。
 以前は、気管支を広げる作用のある飲み薬(気管支拡張薬)が主体でしたが、最近はアレルギーの炎症を抑える吸入ステロイド薬を主体にする治療へと方針が大きく変わりました。喘息が慢性的な気道の炎症であるということが明らかになった以上、予防もせずに気管支を広げる薬だけを続ける治療は、痛みが出ないうちから鎮痛剤を服用するのに似ています。
 薬は有効性の高いもの、副作用の少ないものから優先して用います(図8,9,10,11)。炎症を鎮める根本的治療として、現在最も高い効果をもつのが吸入ステロイド薬(フルタイド、パルミコート、キュバール、フルタイドエアーなど)ですが、医師に指示された回数をきちんと守っていると、3〜4日後よりすぐれた効果を発揮し、症状がコントロールされます。よくなっても継続することが大変重要です。吸入ステロイド薬は、使用後のうがいさえ励行すれば、飲み薬のステロイド(プレドニン、リンデロン、レダコートなど)や点滴のステロイド薬(プレドニン、リンデロン、サクシゾン、ソルコーテフ、ソルメドロールなど)と違って副作用の心配がほとんどなく、また喘息の発作予防に非常に効果的です。
 そのほかに、テオフィリン製剤(気管支拡張薬〈テオドール、ユニフィル、スロービッド、ネオフィリンなど〉)、経口β刺激薬(気管支拡張薬〈スピロペント、メプチンミニ、メプチン、ホクナリン、ベロテックなど〉)、短時間作用型吸入β刺激薬(気管支拡張薬〈サルタノールインヘラー、メプチンエアー、ベロテックエアーなど〉)、長時間作用型吸入β刺激薬(セレベント)、長時間作用型貼付β刺激薬(ホクナリンテープ)、抗アレルギー薬(オノン、アレギサール、アイピーディ、アレジオン、アコレート、シングレア、キプレスなど)に有効性が認められています。
 最近は吸入ステロイド薬と長時間作用型吸入β刺激薬の合剤(アドエアー、シムビコート、レルベアなど)が主流になっています。吸入ステロイド薬はあくまでも予防のための薬で即効性はなく、発作時の治療としては適切ではありません。
 基本的に重症度(呼吸困難が週のうち何回あるか、夜間の発作は月何回あるか、日常生活がどの程度妨げられるかなど)に応じた段階的治療が行われます。

喘息治療の目標 喘息治療のステップ(成人)
喘息治療薬 吸入薬と経口・貼付薬の違い
こんなにあるぜんそくのくすり 吸入ステロイド薬の体内動態

6.生活上の注意

 ぜんそくは治療薬の使用法と生活上の注意を守れば日常生活を支障なく送れるばかりでなく、運動も可能です。オリンピックのメダリストにも数多くのぜんそくを持った選手がいることも有名です。
 治療中の方では、喉のイガイガ、咳、痰、胸の圧迫感などの発作の予兆が出たら注意し、発作になったら短時間作用性の吸入薬を使用しても良くならない場合は、早めに医療機関を受診することが大事です(図12、13)。

主な喘息発作の前ぶれ 救急外来受診の目安

※図表はJASCOMより引用